神社といえば、まず思い浮かぶのが鳥居かもしれません。特に印象的なのが、あの赤い鳥居の色です。
どうして鳥居は赤いのか。「なんとなく魔除けっぽいから」というイメージは広く知られていますが、その背景には、日本人の信仰・自然観・色の感覚が折り重なっています。
この記事では、
- なぜ鳥居は赤いのか(朱色の意味)
- 赤くない鳥居との違い
- 鳥居が示す「ここから先は神さまの領域」という境界
- 鳥居の色から見えてくる、日本人の祈りの感覚
といったテーマから、鳥居の色に込められた意味を解説します。
鳥居の赤=「朱色」は、古代からの魔除けの色
日本の神社の鳥居に使われている赤は、厳密には「朱色(しゅいろ)」と呼ばれる色です。朱は、辰砂(しんしゃ)と呼ばれる鉱物(硫化水銀)を原料とした、古代からの顔料でした。
この朱色は、古くから「魔除けの色」「聖なる色」として使われてきました。そこには次のような背景があります。
- 朱に含まれる成分(鉛丹や水銀系の顔料)には、防腐・防虫などの効果があり、木材を長持ちさせる実用性があった
- 血や火、太陽を連想させる強い赤は、「生命力」「活力」「邪を祓う力」の象徴とされた
つまり朱色は、
「木を守るための技術」と、「目に見えない災いから守ってほしいという祈り」が重なった色
と言えます。現実的な防腐技術と、見えない存在への信頼が、一つの色に凝縮されているのです。
朱色は「境界を示す色」でもある
鳥居の役割は、よく次のように説明されます。
「ここから先は神さまの領域ですよ」と示す目印
鳥居は、日常世界と神さまの世界の「境界」に立てられます。そこにあえて朱色が使われるのは、ただ目立つからではありません。
静かな森や、街中の一角に、鮮やかな朱の鳥居が一本立っているだけで、
- ここから先は、いつもと少し違う空気が流れていそうだ
- 背筋を伸ばして心を整えてから進みたい場所だ
という感覚が自然と生まれます。
鳥居は単なる「門」ではなく、
色によって境界を可視化し、心のモードを切り替えるための装置でもあるのです。
赤くない鳥居もある──色と素材の違いにも意味がある
とはいえ、日本の鳥居がすべて赤いわけではありません。
- 木肌そのままの鳥居
- 石造りの鳥居
- 灰色・白っぽい鳥居
など、地域や神社の成り立ちによって、色や素材はさまざまです。
赤くない鳥居の背景として、次のような点が挙げられます。
- 自然の木肌をそのまま見せることで、「素朴さ」や「古くからの祈りの場」であることを表現している
- 山岳信仰・磐座信仰など、山や岩そのものを神として祀る流れの中で、自然と調和しやすい石鳥居が発達した
- 江戸時代以降、城下町や都市部では石材が多く用いられ、耐久性を重視した鳥居が増えていった
大まかに言えば、
朱の鳥居は「朱で守られた整えられた神域」、
石の鳥居は「土地や山そのものが持つ力」を象徴している
とイメージしてもよいかもしれません。
鳥居の色や素材の違いは、単なる好みやデザインの問題ではなく、
その神社がどのような神さまを祀り、どのような自然や歴史を背景に持っているかを映し出す要素でもあります。
鳥居の赤は、神域の「雰囲気」をつくる色
朱色の鳥居がずらりと並ぶ神社を歩くと、少し異世界に踏み入れたような感覚になることがあります。伏見稲荷大社の千本鳥居などが代表的な例です。
この特有の雰囲気は、次のような要素が重なって生まれます。
- 視界の大部分を占める朱色の連続による、強い色彩体験
- 「神さまの領域に近づいている」という心理的な高まり
- 一歩一歩、鳥居をくぐり進む行為そのものが、心を整える“儀礼”になっていること
鳥居の赤は、単に「遠くからでも目立つため」の色ではありません。
参道全体の空気をつくり、日常の思考から祈りの状態へと心を切り替えるための色として機能しているのです。
この意味では、参道の歩き方や、お守りの持ち方と同様に、
色や形を通じて「自分の心をどう整えるか」をそっと促す仕掛けだと言えるでしょう。
鳥居は「くぐる」のではなく、「意識して境界を越える」ためのもの
鳥居について考えるとき、色と同じくらい大切なのが、「どのような心構えで通るか」という感覚です。
鳥居の前で軽く一礼し、参道の中央(正中)を避けて歩く── といった参拝作法は、
「これから神さまの領域にお邪魔します」と、自分の心に知らせるための動作
ともいえます。
つまり、朱色の鳥居は、
- 色で「境界」を示し、
- 形で「くぐる」動作をつくり、
- 作法を通して「心のモードを切り替えるきっかけ」を与えてくれる
という、複合的な“祈りの装置”なのです。
まとめ──鳥居の赤に込められた、日本人の祈りの感覚
鳥居が赤い理由を、あらためて整理してみると──
- 朱色には、防腐・防虫などの現実的な効果があった
- 同時に、古くから魔除け・聖なる色として信じられてきた
- 朱の鳥居は、神域と人の世界の境界を色で示す役割を持つ
- 赤くない鳥居や石鳥居には、その土地の自然観・歴史・信仰の違いが表れている
- 鳥居は、色と形と作法を通じて、人の心を祈りの状態へと導く仕掛けになっている
このように見ていくと、鳥居の赤は、
単なる装飾や伝統ではなく、技術と信仰と美意識が一体となった、日本人特有の祈りのかたちだと分かります。
次に神社を訪れるときは、鳥居の色や材質、立っている場所にも少しだけ目を向けてみてください。
その神社がどんな自然を背景に持ち、どのような神さまを大切にしてきたのか、以前よりもくっきりと感じ取れるかもしれません。
そして、その鳥居をくぐるときには、
自分の中のどんな気持ちを、神さまの前に持っていきたいのか──
そんなことも、そっと意識してみてください。

